※2014年楽器フェアに際しディバイザーが発行した出展モデルカタログ「EXIBIT COLLECTION」の中に掲載したインタビューの模様を再掲します。momose Custom Craft GuitarsやHeadway Guitarsの特別モデルで施される「うるし塗り」は長野県朝日村に工房を構える「彩漆KOBAYASHI」の小林さんによるものです。下記インタビューはmomose特別モデル制作についてうかがったものですが、ギター全般について関わる内容になっておりますので、是非ご一読ください。
"漆"
ひと目見ただけでは伝わらないうるし塗りの魅力について、今回の(2015楽器フェア向け)特別モデルのうるし塗りを担当いただいた長野県「彩漆KOBAYASHI」の小林登さんにお話しを伺いました。
拭き漆と石目仕上げ
-今回エレキギターやベースへの漆塗りということで、アッシュやアルダーといった木材への塗装でした。普段目にする木と比べて印象はどうでしたか?
小林登(以下小林):普段よく塗装するのはケヤキやセン、クリといった気が多いと思います。特に私がよく行う「拭き漆」という手法の場合は木目を引き立てる仕上げですから、導管が目立つような木が多いですね。
アッシュの木は、拭き漆との相性も良く綺麗に仕上がったと思います。また、木目が控えめなアルダーは「石目」と呼ばれる手法で仕上げました。
-アッシュボディに施した「拭き漆」とはどういった作業の流れなのでしょうか。
小林:まずは漆を塗る木地が平らになるように、下地をつくります。今回は飛鳥工場にて下地を整えた後のボディを用意してもらったので、ここへハケを使って漆を塗っていきます。
塗った漆を今度は専用の特殊な紙で拭き取ります。この時木目やその個体を見極めながら作業を行います。
塗る前に塗装面の研(みが)きなどの調整を行い、ボディ全体を20分かけて塗り、拭きあげてしばらく乾燥させます。この塗って乾かす工程を6回ほど繰り返します。
-塗って乾かす回数はどうやって決まるのですか。
小林:一般的に棚や木工品などは4回、たまに5回のものもあります。塗り重ねるほど、わずかではありますが塗膜が形成されることもあり、仕上がりのツヤや質感に違いがあります。今回ギターのボディに塗るということで高級感があり、、しっとりとしたツヤが出るように6回ほど塗り重ねてあります。
-では、今回アルダーに使用した「石目」という手法はどういったものでしょうか。
小林:石目は下地を平らにした木地に対して漆の粉や地の粉、木粉を撒き、更に上から漆を塗り、研ぐことで表面に独特の凹凸を持った質感に仕上げる手法です。撒いた粉の上に漆を塗り重ね、ツヤを与えます。更に適度に研ぎを加えることで全体の質感を整えます。
磨きが少ないとザラザラと毛羽立った印象になってしまうため、バランスを見ながら研ぎあげます。更に漆を2〜3回塗り、最後に色を含んだ漆を塗ります。
日々使い続けられるものとして
-漆塗りのギターのお手入れについて気をつけることはありますか?
小林:日々のお手入れはクロスの乾拭きが最適です。ポリッシュや研磨剤が含まれた化学クロスなどは塗膜が傷む原因になりますから気をつけてください。少し目立った汚れがついてしまった場合は、水を固く絞ったクロスで拭くことをお勧めします。
-いわゆるエレキギターのラッカー塗装だと、色焼けやクラッキングといった経年変化が見られますが、漆の場合経年変化はありますか?
小林:漆は紫外線への耐性が比較的弱いと言われます。拭き漆の場合は経年によって少しずつ色が抜けていき、淡い色あいに変化します。木目の中で導管に入った濃い色は残るためコントラストがついてくると思います。
-このギターを通じで伝えたい事はありますか?
小林:私は特に拭き漆と石目漆を長くやっているということもあり、基本的には普段長く使ってもらう道具として色々な人に使ってもらえればと考えています。漆は最も優れた天然塗料です。漆器の器は高価なものと思われて日常使いから敬遠されがちですが、今回ギターに施した拭き漆のように木地に吸い込ませた仕上げもありますし、傷んだ時は塗り直しもできます。小さい時から使い続けられるものとして、日々の生活の中で身近に感じられるように、漆塗り全体の認識が広がると良いなと思います。
今回エレキギターに漆塗りしたことは、広く人に知って頂けるいい機会だと考えています。漆塗りの魅力をギターを弾かれる方にもお伝えできればと思います。
-小林さんありがとうございました。
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これからも不定期ではありますがエレキギター、エレキベース、アコースティックギターなどで漆塗りのギターを制作してまいりますのでお楽しみに!
「彩漆KOBAYASHI」小林 登
長野県東筑摩郡朝日村西洗場1236-2